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錯誤無効による相殺に関する裁判例
3 錯誤無効による相殺に関する裁判例
基本契約の異なる複数の取引が存在し,各取引間に空白期間があるため,一連計算が難しい場合,後の取引の借入を錯誤無効と主張することにより,実質的に一連計算と同様の結論を得ることが出来ないかが問題となる場合があります。
●岐阜地方裁判所多治見支部平成20年3月31日判決(兵庫県弁護士会HP)
【問題となった争点】
貸主・借主間で第1取引を締結し完済後,第2取引により借入・返済を行った場合において,第1取引で過払金が発生していた場合,過払金の発生を知らずに行った第2取引の借入は錯誤無効であるとして,第1取引の過払金返還請求権と第2取引の借入金の返還債務とを相殺できるか。
【判決の要旨】
「過払金返還請求権の存否は,借主にとって当該取引を継続すべきか否かの判断に当たり,重要な要素になっていると認めるのが相当であって,この理は,同一の基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引を継続する場合に限らず,一旦このような取引を中断した後,別個の基本契約に基づき,再び同種の取引を開始する場合にも当てはまるというのが相当である。」 第2取引の開始時点で第1取引の過払金の存在を知っていれば,借主はその返還を求める一方,第2取引のような利息制限法を超える利率で第2取引の最初の借入をしないのが通常であり,その後の各借入も同様のことが言えるから,第2取引の各借入は,「取引の可否を左右するに足りる重要な動機の錯誤が存在したと認めるのが相当である。」
【解説】
本裁判例は,第1取引によって発生した過払金を債務者が当時知っていれば新たな貸付は受けないのが通常であるから,第2取引は錯誤により無効であるとして,第1取引による過払金返還請求権と第2取引による借入金返還債務との相殺を認めたものです。
本裁判例によれば,基本契約が複数存在し一連計算が認められない場合でも,錯誤無効と相殺を主張することで,実質的には一連計算した場合と同様の結論を得ることができます。
【ポイント】
基本契約が複数存在し一連計算が難しい場合でも,錯誤無効により一連計算と同様の計算ができる。